012498 ランダム
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如月堂

如月堂

香月珈異さんからの頂き物

━━━━テニスの王子様不二の話━━━━
 授業中、ふと窓の外を見た。
 イチョウの大木の青々と葉を茂らせた枝は、そよぐ風に揺れている。
 もうすぐ、梅雨も明ける。
 グラウンドで行われている体育の授業は、サッカーで、生徒たちの歓声と教師の吹く笛の音が響いた。
(暑そう…)
 さんさんと照りつける日差しの中で、走り回っている集団を見て、不二は思った。
「ほら、よそ見をしていないで。ここはテストに出すからね」
 黒板の前から、国語教師の厳しい声が飛ぶ。
 不二が手塚の姿を見つけた直後だった。
 聞こえないように舌打ちをして、不二は前を向いた。
 ほかの生徒同様に、体操着姿の手塚がサッカーをしているのはとても珍しいように思えた。
 国語教師の目を盗んで、不二はグラウンドの手塚を目で追いかけた。
(こっちに気が付かないかな)
 見慣れた背中にそればかりを願っていた。
 いつも見つけたり、追いかけたり、ばかりしている。たまには、むこうからなにか接近してくれてもいいのにと望まずにはいられない。
 そんな気も知らないで、級友となにやら楽しげに話す様子は、ちょっと腹立たしい。
 一方的な感情だとはいえ、不二は教室内に視線を戻した。
 国語教師は、主人公の感情と行動を解説しながら、黒板に必要なことを簡潔に記していく。白墨の子気味いい音が止まり、本日のまとめをはっきりとした口調で述べる。何度も繰り返し、重要だと強調した。
 授業終了のチャイムが鳴った。
 同時に起立、礼の号令がかかり、教室は瞬時に騒がしくなる。
 不二は、校舎に戻ってくる体操着の集団を頬杖をついて眺めた。
(あ、手塚)
 級友とサッカーボールを手にした手塚は、不二を見上げた。
 その突然の行動に驚いたのは不二のほうだ。
 しっかりと目が合ったので、偶然ではないようだ。
 手塚が自分の方を見た。
 見ていた事に気が付いていた。
 なんだか急に恥ずかしくなって、不二は慌てて席を立った。
 用もなく菊丸の席に行く。
「どうしたの?」
 次の授業の教科書を鞄から出していた菊丸は、不二を見るなり笑った。
「不二、ほっぺが真っ赤だ」
「・・・やっぱり?」
 だからといってそんなに笑うことでもないと思う。
 菊丸に笑われて、恥ずかしさが増した気がした。
 不二は両手で頬を抑え、菊丸の隣りの席に座った。
「珍しいもの見ぃちゃった」
「そんなことないよ」
「かわいい不二は珍しいよ」
「・・・かわいくなんかないよ」
 不二はぷい、と横を向く。
「そうかにゃぁ?」
 菊丸は、楽しそうな表情のままだ。
「そうだよ」
「じゃ、そーゆーことにしておくよん」
 何もわからないくせに、こんなときに限って妙に敏いのだ。
(あんなところで、手塚が振り向くから…)
 突発的な事には、ほとほと弱い。
「窓の外に、誰がいたのかにゃ~?」
「英二っ?!」
「だって、授業中ずっと外見てたじゃん。ばればれだよ」
「・・・うそ」
「うっそー」
「英二・・・」
「俺くらいじゃん?気がついたのはさ。隠しておきたいんならもっと気をつけないとね」
「・・・」
 菊丸に振り回されているようでは、ぜんぜん駄目だ。
 不二は深いため息をついて、席を立った。
「次から、気をつけるよ」
「ふじきゅん、かわい」
 わざと高い声を出す菊丸に不二は冷ややかな微笑みを返す。
「いやん、おこんないでよ」
「じゃあ、かわいいは禁句」
「えー」
 あからさまに不満をあらわにすると不二が鋭く睨む。
「・・・もーいいません」
 菊丸は、素直に返事をする。
 不二もそれ以上は何もせず、自分の席に戻った。
 窓の外を見ると体操着の集団が棒高跳びの準備をしている。
 昼が近づくにつれ、ますます外の気温は上昇しているに違いない。
(どれだけ暑くなるんだろう・・・)
 先刻までイチョウの枝を揺らしていた風も今は止んでいる。
 不二は、次の授業の教科書を机の上に出しながら、先刻目の合った手塚を思い出して、再び頬が熱くなった。
キリバン踏んだ時に貰ったものですよ~テニスの王子様の不二のお話です
━━━━テニスの王子様海堂の話━━━━
まだ夜が明けたばかりの早朝。
日課であるジョギングをするため、Tシャツに短パン姿に着替えた海堂が玄関を出ると、小雨がぱらついていた。
海堂は頭に巻いたバンダナを結びなおし、ためらいもなく走り出した。
朝の冷たい空気と独特の香りが、夏が間近にきている事を知らせ始めた。
今年の夏も暑くなるのだろうか。
庭木の手入れがきれいに施されている住宅の脇を通ると、気の早い蝉が一声鳴いて飛び立った。
たえまなく降る小雨は、邪魔になるどころか、どんどん上昇してくる体温をちょうどよく冷却してくれる。そのせいか、いつもより走りやすいと感じた。自然とピッチが早くなる。
しばらく走ると川沿いに出た。橋を渡らずに土手の方へまわる。
腕時計で自分のペースを確認しながら、規則正しい呼吸で走る。
途中、犬を連れた年配の男性に挨拶をされ、無愛想ながらもそれに応えた。
ジョギングは、何も考えなくていいところが好きだった。
コートに入れば、入る前も、常に勝利という無言のプレッシャーが覆い被さってくる。
自分だけのペースで走るジョギングには、それが生まれない。
けれど、甘えるわけにはいかないのだ。
必要なのは、勝つための自信。
それは、常日頃から鍛えている努力の成果だ。
最近、勝利へのプレッシャーに加えて、年下からの追い上げも著しい。
負けたとはいえ、勝てないとは思えない。
次は必ず・・・。
その為の鍛錬は苦にならないのだ。
持久力という、誰にも負けない、負けたくない部分を強力に磨き上げていく。
元来、真面目というか素直というか、疑うことを知らないのではと、思わせるほどの海堂の性質は、こつこつと積み上げることに適していた。
それを見抜いてこその、乾の作り上げた練習メニューは、日々わかるほどに海堂のレベルを確実に上げていく。
何もかもを見透かしているような乾を、たまに、悔しいと思うときもあるが、やはり、尊敬の念を抱かざるを得ない。
だからこそ、負けるわけにはいかない。
海堂は、走るペースを少し速め、川沿いの直線を進んだ。
「おはよう」
突然、隣りに誰かが並んだと思ったら、同時に声が振ってきた。
「やあ。雨が降ってたけど、やっぱり走っていたか」
海堂のペースに合わせ、隣りも軽快に走っている。
「・・・おはようございます」
気配もなく現れた乾に、海堂はものすごく驚いたが、それを隠すように、ぼそぼそと答える。
「こんなのは、雨が降っているうちに入らないっス」
乾はそんな海堂に苦笑しつつ、前を向いた。
「それでも、体を冷やすのはよくない。今日は早めに切り上げるように」
諭すようにいわれ、海堂も仕方なく頷いた。
多分、これを言うためだけに海堂を待ち伏せていたのだろう。
海堂は、自分を気遣ってくれる乾に感謝しつつ、それでも、悔しいと思う。
「このままちゃんと家に帰ろよ」
橋の袂で立ち止まると、乾はぽんっと海堂の頭をたたいた。
「はい」
子ども扱いは気に入らなかったが、先輩の命には素直に従う。
「じゃ」
片手をあげ、乾は橋を渡っていく。
「ありがとうございました」
海堂は、一礼をし、乾に背を向けた。
小雨はずっと降り続いたままだ。
いつか。
あの、大きな壁を乗り越えて見せる。
走り出そうとした足をとめ、振り返る。小さくなった乾の姿を見つめ、海堂はそう誓った。

ある、朝の出来事。
これもキリバンを踏んだ時に貰ったもので海堂君ですよ
やっぱ海堂君はかっこいいねウン
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